【予告編】Blazing Firewood Part1

【Assault for Freedom】 Chapter2 “Blazing Firewood”

同人誌・電子書籍として頒布予定の”Assault for Freedom”、
そのChapter2の予告編となります。

 

「さあさあ、お立合い! 不死鳥教の教祖様がお見えだよ!」
 コスティは芝居がかった調子で声を張り上げると、両腕と頭でZを作るように深くお辞儀した。カメラマンや音声さん、照明係などと言った、BASのスタッフたちに向かって。
「こんにちは! テレビやパソコン、それにケータイや本の前にいる皆! 華焔不死鳥、クローディア=クックだよ!」
 クローディアは爽やかな笑顔で、こっちに手を振っている。
「今日はね、この、デパートエリアにある、フィリピンレストランで――!」
 カメラがズームアウトすると、クローディアの背後にあった、レストランの入り口が映し出される。背の高い観葉植物や、南国めいた原色の壁紙などが、濃厚で甘い花の香りを思い出させる。
「全メニュー制覇に、チャレンジしていくよ!」
 腕を組んだクローディアが着るジャケットが、強風によって激しくはためく。カメラの隅では、指揮棒を両手に持ったコスティが身を反らし、両腕を激しく後ろ回転させている。荒ぶった動きで、荒れ狂う向かい風を巻き起こしているのだ。
「お! クローディア様じゃんか!」
「きゃ~! こっち向いて~!」
 偶然通りすがった、熱烈なファンと思わしきカップルによる、熱烈な歓声を受けたクローディア。
「おー! 敬虔な宗徒たちがここにも!」
 すかさず二人の方に視線を移し、思いっ切り手を振る。
「そうだ! 好きなプロレス技を聞いてみたかったんだ!」
「好きな技? ドラゴン・スクリュー!」
「ブルーノの事、本当はどう思ってるの!?」
「あいつ新人の子をいじめて、モチベーション下げるからホント大っ嫌い! BASの癌だよね、顔も見たくない!」
「あるぇ~? でも君この前、彼と一緒に仲良くクリームパスタ食べに行ったんじゃないのかい?」
 その場エビ反り逆回転クロールに徹していたコスティは、おちょくるようにニヤニヤと笑いながら言った。
「あいつがいじめた子に謝罪させる為に、先輩として同行したんだよ。お詫びの品と、特上のイタリアンを用意してさ」
 すかさず切り返したクローディアは、コスティと肩を組むと、カメラの死角となる位置まで歩いていった。
「ちょっとコスティ。カメラが回っている時に、ギミック崩すようなこと言わないでよー」
「今更過ぎるでしょ。ネットにも画像上がってるんだし」

 

「こんなにヒトがぎゅうぎゅう詰めだと、通り魔に襲われても、気付けないかも知れないわねえ」
 プラネッタが不自然に、四つ目をあちこちに動かしていると、隣に立つアクシャヤが独り言のように言った。「えっ?」と漏らすと、四つ目の全てでアクシャヤを見上げる。
「ダンサーズの中に居るのよ~。街を歩いていたら、通り魔に刺された子が。その子、ゾンビに成り立ての頃は、広場恐怖症に苦しんでいたわ。ホント、若いのに可哀想にねえ」
「そうなんですか……」
 プラネッタは四つ目をパチパチとさせる。
「人前に出るのがイヤ。でも一人ぼっちもイヤ。だからアタシ、その子をダンサーズに誘ってあげたの。でも、恐怖症を克服するまで、と~っても時間が掛かったわ。人混みが怖いと言う苦しみは、他の子にとって理解し難かったから」
 プラネッタは、彼が遠回しに励ましている事を悟った。
「難しい問題なのです。極限状態を体験した人間が、平和な世界で普通に過ごすのは。戦争帰還兵のような」
 広場恐怖症のゾンビに対してのコメントは、自ずとプラネッタ自身を慰める言葉にもなった。
「その子と同じ、広場恐怖症のお友だちがいれば、もっと簡単だったのにねえ。でも、広場恐怖症の子をムリヤリ外に出すなんて、ホントはダメでしょ? ハァ……、難しいわねえ」
 それまでノートにペンで絵を描いていたフランは、突如プラネッタの方に手を伸ばした。
「ネッタちゃん、ピストル貸して~!」
「えっ? いいですけど……」
 プラネッタは、白骨のような自動拳銃を、メーションで手の内に現した。ちなみに、少なくともアーティストが、ドーム内で武器を携行する分には、何ら違法ではない。
 銃のグリップを握ったフランは、「メルシ~!」と軽快に礼を述べる。プラネッタの全身を眺め回した後、数秒間拳銃を見詰めたまま、イメージを研ぎ澄ませる。
 すると、フランの全身が一瞬だけ淡い光に包まれ、パステルカラーのミニスカドレスが、プラネッタそっくりの衣装となった。
 丈夫なインナーの上に防弾ベスト、特徴的なベルト周りには、サバイバルに役立つ多種多様な小道具。即興変身故にディティールは異なるし、敢えてのパステルカラーな配色は本物と異なるとしても、かなりの再現度だ。
「あらまあ! フランちゃんも傭兵デビュー!?」
 乙女チックに両手を組み合わせたアクシャヤが、舐め上げるようにフランのコスチュームを眺めた。
「えっ? えっ?」
 プラネッタは、着ている服が盗られたのかと考え、思わず自分の胸を見下ろした。
「身も心も傭兵になれば、少しはネッタちゃんのキモチも分かるのかな~!?」
 そう言ってフランは、プラネッタを真似するように、視線と銃口をあちこちに向けて、警戒態勢に入った。
「あのう……はい。ありがとうなのです」
 独特な言い回しに、上手く返すことは出来ずとも、フランなりの気遣いを、ありがたく受け止めた。
「お揃いちゃんが隣にいれば、なあんにも怖くないわねえ」

 

「あんたたちの鼻っぱしを折っちゃえば、ミシェルがギャラを弾むって言うからさー。ちゃっちゃと倒されてくれない?」
「ギャラとか雇い主の名前とか、よく平気でぶっちゃけられるよね。一端のアーティストとして、恥ずかしくないの?」
 常人以上の食べ物の恨みが、クローディアの口調を荒げる。
「さーね。恥ずかしがるだけのプライド、どこにやったっけ? お庭に植えたんだっけか? 何も収穫できなかったけど」
 ロジータは両手を後頭部に回して、口をへの字に曲げた。
「パンに餓えている家族・・が沢山いるのに、金にならないモノ持ってても意味ないしー。どんなに綺麗事を並べても、結局モノがないと始まらないじゃん。冥王さんなら、分かるよね?」
「せっかく美味しい食糧に恵まれても、食欲、つまり生きたいという元気が無いと、意味がないわ」
 そう言ってアクシャヤは、両目に微かな憐憫を籠めた。
「アタシはね、ベイビーたちに美味しいご飯と同じだけの、生き甲斐も与えてあげたいのよねえ」
「生き甲斐なんて探してるから、あんたたち貧乏なんだっての。お金をドブに投げ捨てる、お荷物な王様。ヒヒヒ!」
 ロジータが嘲り笑うと、アクシャヤは大きなため息をつく。

 

 その頃、レストランの出入口では、群衆が揉めていた。
「せーのでディア様引っ張るか!? ムリか!?」
「先に中の子を助けよう! でなきゃ他の四人もやられる!」
「助けるってどうやって? 中の様子も分からないのに?」
「蔦の壁が邪魔で、中が拝見できませんの……」
 プラネッタは自ら仰向けに倒れ、開いた二本足の間から銃を撃つ。短い棒を振り降ろすにも、寝技に持ち込むにも、真下から撃たれてしまう。仕方がないので、ロジータは遮蔽物に隠れ、パウダーを振り掛けるなどして嫌がらせをした。
(そうだ。俺が見ている景色をシルフィードに託そう)
 コスティは、身近で揺蕩う風の精霊に念を送った。数秒後、広大な草原を吹き抜けるような、穏やかな風の音色がレストラン街に響いた。それを聴いた人々は、コスティが見ている光景が目に浮かんだ。プラネッタとロジータのバトルが。
「あれ? このイメージって……」
 二本の棒を踊るように振り回し、拳銃でそれを受け止めている最中。ロジータは、プロレスの毒霧よろしく、口内に仕込んだジャンクパウダーを吹き付けた。視界を奪われたプラネッタは、蜘蛛の足二本で爪先立ち・・・・となり、高速回転しながら乱射する。低姿勢になり、一旦様子を見るロジータ。
「やっぱ目に浮かぶよね!? ロジータとプラネッタ!」
「これ知ってる! コスティ君の、共感覚共有能力だ!」
「みんな店の奥に非常口見えるよね!? ね!?」

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