【SS】甘美なる満月

 詩の朗読などで活躍されている上月えるさん。

 詩人戦隊ポエーマンズの一員、月白さんのSSを、気分転換に執筆しました。

 するとなんと、嬉しいことに朗読して頂いて……!

 本文と共に、朗読の音声動画を掲載いたします。

 作品を朗読して頂くことは生まれて初めてですが、思わず目頭が熱くなりました。

 本当に、どうもありがとうございました!


◆   ◆   ◆

 

 

 青白い満月の夜の出来事だった。

 どこからともなく聞こえた声に誘われ、手を引かれたように細道に迷い込む。フクロウのように穏やかで、バイオリンのように優美な声に誘われて。

 

 白い月に映し出そう
 君と僕が手を繋ぐ影を

 

 霞の空のようにおぼろげな声。近づくにつれてそれは、歌声であることが分かった。

 

 タルトを照らすキャンドルの灯火
 ワインを注ぎ激しく燃やして

 

 茂みを抜け、木の枝を潜り、やがて辿り着いたのは、小高い丘だった。その頂上では、品の良いスーツを着た、流麗な髪を持つ人間が、青白い月を背に立っていた。

 

 白い月に響かせよう
 君と僕の秘密の会話を

 

 物音を立てぬよう、慎重に近づいてゆく。顔の輪郭がはっきりと浮かび、それは優しげな笑みを湛えた、美青年だと知る。目を閉じ、歌うことに集中している為か、私の接近には気が付いていない。

 

 夜風が耳元で囁く度に
 きっと甘い香りが漂うから

 

 彼の心地良い歌声が、終わりを告げる。私は立ち止まり、夜風がそよぐ音を思い出す。

 ゆっくりと彼の瞼が持ち上がる。月光のような青眼――角度によっては、闇夜を映したかのように、紫にも見える。魅入った私が、僅かに息を漏らすと、彼はやんわりと微笑む。

「秘密の練習……聴かれちゃったか」

 彼は照れ臭そうに言う。歌と同じ、包み込むような美声。

「これをあげるから、どうか内緒にね」

 可愛らしい箱を手に取り、封を開け、私に中身を見せた。イチゴいっぱいのベリータルト、きっと彼の好物なのだろう。

 満月を甘美に飾り立てた、二人きりの秘密の味。

 

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