詩の朗読などで活躍されている上月えるさん。
詩人戦隊ポエーマンズの一員、月白さんのSSを、気分転換に執筆しました。
するとなんと、嬉しいことに朗読して頂いて……!
本文と共に、朗読の音声動画を掲載いたします。
作品を朗読して頂くことは生まれて初めてですが、思わず目頭が熱くなりました。
本当に、どうもありがとうございました!
◆ ◆ ◆
『甘美なる満月』後半
text_sun
voice_上月える(前半はスレッドのトップへ!)
ご視聴、ありがとうございました!!
sunさんの文、ほんっとに綺麗で素敵すぎます… pic.twitter.com/SH9CNdrnto— 上月える☽ (@sktr11139) April 18, 2019
青白い満月の夜の出来事だった。
どこからともなく聞こえた声に誘われ、手を引かれたように細道に迷い込む。フクロウのように穏やかで、バイオリンのように優美な声に誘われて。
白い月に映し出そう
君と僕が手を繋ぐ影を
霞の空のようにおぼろげな声。近づくにつれてそれは、歌声であることが分かった。
タルトを照らすキャンドルの灯火
ワインを注ぎ激しく燃やして
茂みを抜け、木の枝を潜り、やがて辿り着いたのは、小高い丘だった。その頂上では、品の良いスーツを着た、流麗な髪を持つ人間が、青白い月を背に立っていた。
白い月に響かせよう
君と僕の秘密の会話を
物音を立てぬよう、慎重に近づいてゆく。顔の輪郭がはっきりと浮かび、それは優しげな笑みを湛えた、美青年だと知る。目を閉じ、歌うことに集中している為か、私の接近には気が付いていない。
夜風が耳元で囁く度に
きっと甘い香りが漂うから
彼の心地良い歌声が、終わりを告げる。私は立ち止まり、夜風がそよぐ音を思い出す。
ゆっくりと彼の瞼が持ち上がる。月光のような青眼――角度によっては、闇夜を映したかのように、紫にも見える。魅入った私が、僅かに息を漏らすと、彼はやんわりと微笑む。
「秘密の練習……聴かれちゃったか」
彼は照れ臭そうに言う。歌と同じ、包み込むような美声。
「これをあげるから、どうか内緒にね」
可愛らしい箱を手に取り、封を開け、私に中身を見せた。イチゴいっぱいのベリータルト、きっと彼の好物なのだろう。
満月を甘美に飾り立てた、二人きりの秘密の味。