前回に引き続き、プラネッタが主人公の超短編!
誰かに言われた「かわいい!」を本気にしたら、
ドン引きされた経験はないでしょうか?
劇中、「四つ目」「上にある二つの目」という描写がありますが、
気が向かれましたらイラストを参照して頂けたらなと……!
◆ ◆ ◆
その日、蜘蛛人間のプラネッタは、お料理教室に通っていた。傭兵の娘として自活術を叩き込まれ、更にボディガードとして食い扶持を稼げる程の技術を持つ彼女には、不要な自分磨きかも知れない。それでも、戦場で生まれ育ったプラネッタは、普通の女の子としての生き方に憧れているのだ。
ビルの一画にある料理スタジオ。収納棚を兼ねたテーブルに、受講生が作ったスモーブローが並べられている。ライ麦パンの上に、輪切りにしたゆで卵や、薄切りしたサーモンを載せる過程で、受講生らはナイフの扱いを習得するのが目的。
他の受講生同様、エプロンを着ているプラネッタは、インストラクターが話す「次の開催日時」についてメモしている。モフモフの白アザラシが表紙にある、可愛らしいメモ帳に。
説明を終えたインストラクターが、「それでは皆さん、作った料理を頂きましょうか!」と言った後のこと。
「あっ、かわいいそれ~!」
隣に立つ少女が、プラネッタのメモ帳を指差して言った。
「この子のことなのです?」
四つ目のプラネッタは、メモ帳の表紙を指差しながら、上にある二つの目を嬉しそうに細めた。
「うん、かわいいよね!」
「やっぱりそうですよね!」
仲間が見つかり、プラネッタはすっかり興奮していた。
「この浮き輪に乗ってるの、特にかわいくないです!?」
メモ帳の一ページを見せながら言うと、隣の子はいきなり真顔になって黙った。内心で「はしゃぎ過ぎたのです……?」と、氷を飲み込んだような不快感が膨れ上がるプラネッタ。隣の少女の、真意の読めない目が、とても痛く感じた。
「あっ、そのフォークかわいい~!」
隣の、そのまた隣に立つ少女が言った。黙っている少女が持参した、小鳥のキャラクター柄フォークを見ながら。
真顔だった隣の子が「かわいいでしょ~?」と言い、そのまた隣の子が「かわいい、かわいい~!」と持て囃す。それで会話は終わり。彼女たちは、自分らで作ったスモーブローを、黙々と食べ始めるのであった。
――今のが模範解答、すなわち普通の女の子がするような受け答えだったのだろうか? コンプレックスを抱えているプラネッタは、些細なことも真剣に考え込んでしまう。いや、深く考える必要がない、他愛もない会話なのかも知れないが。
(……私は、本当にこの子が、かわいいと思うのですけど)
プラネッタは何とも微妙な表情で、スモーブローを囓った。