【超短編】黄昏時に伸びる影

久々のBAS!

孤独な時に、楽しそうなグループを見掛けて、心が掻き乱されたことはないでしょうか?

これは、年頃の女の子――プラネッタが日常の片時に抱いた葛藤を描いた超短編です。


◆   ◆   ◆

 

 黄昏時、街中の大きな公園に、場違いなミリタリーテントがあった。物干し竿や携帯コンロが、生活感を漂わせている。

 仰向けの姿勢で、ハンモックに揺られているのは、蜘蛛人間のプラネッタ。普段はボディガードで生計を立てる、このシェルターの主。傭兵の娘で、戦地で生まれ育った為に、このようなサバイバル的な生活が染みつ付いて離れない。

「あっ、またいるーあの子」

 近頃、毎日のようにここで屯する女子グループが、ベンチから指差して笑っている。動物園のパンダか、落ちぶれたホームレスを観賞するように。「普通じゃないって、気が付かないのかなぁ?」と、一人の女が偉そうに言った。

『こういう生き方を教わったのです! 一人で何でもやらなきゃ死ぬのが、普通の場所だったのです!』

 親元を離れ、平和な世界に来たばかりのプラネッタなら、怒ってそう言い返しただろう。今は何とか思い留まっている。腹の上に乗せた、蜘蛛の巣柄の帽子を――憧れの先輩たちからプレゼントされた友情の証を、強く握り締めて。

 馬鹿騒ぎするグループが、歩き去り始めた。「きゃあ!?」と悲鳴が上がった時、プラネッタは横向きになった。

 一人の女が男にぶつかって、彼が持ってたケーキが地面に落ちたらしい。誰かへのプレゼントを台無しにされた男は、ぶつかってきた女に怒鳴り散らしたが、「あー、すみませーん!」とグループの女たちは愛嬌笑いで誤魔化している。

 もし、普通の女の子の群れに同化すれば、誰かに何か言われても平気でいられるのだろうか? 凡人だからと諦めて、可愛らしさだけを振り撒いていれば。数の利を活かして、「私は悪くないよね?」と。思考や成長を放棄して、「そのままのキミでいいんだよ」と。その方が幸せかもと、時たま感じる。

 ゴミをポイ捨てしながら、我が物顔で歩く女子グループ。周囲から睨まれているのを意に介さず、落日に向かって楽しそうに行進する彼女らが、頭にこびり付き、血が沸騰した。

 ――スマホの着信音が鳴る。プラネッタが我に返る。憧れの先輩からのメッセージだった。世界的な有名人故に多忙で、ちゃんと会って話す機会には、なかなか恵まれないが。

「……私たちは強い人だから、仕方が無いのです」

 口から漏れ出た言葉に、自分で恥ずかしくなってしまう。負け犬が正気を保つ方便に過ぎないと、心のどこかで認めているはずなのに。でも、自棄になってしまえば、自分のことを励ましてくれた強い人に対して、失礼なのではないのか?

 夕日から目を逸らす。自分の影は、刻々と伸びていく。

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